呆然の群像
個展「光さす 山路照らされど...」出展作品(2022) ある秋の日、常念小屋のテン場で一泊した翌朝、凍りついたテントから這い出して御来光を待っていた。周りには同じようにその瞬間を待つ20〜30人の人々。 雲の端がどんどん明るくなる。常念の頂を見上げるともう赤く燃えている。あの光が今立っている場所まで降りてくるのに、あと5分もかからないだろう。 Tri-Xを詰めたオートコードの露出を合わせ(御来光の瞬間の露出はいつもだいたい同じなので測る必要はない)、雲の一番明るい方へ向けて構える。 とその時、山の下から猛烈な勢いでガス(山での雲・霧の総称)が吹き上がってきた。 あと2〜3分で御来光というタイミングに、ものの30秒で視界は真っ白になった。 おれはその瞬間、後ろに向かって走りオートコードの露出を変えて、呆然とする人々に向けてシャッターを切った。 ありきたりな御来光よりもずっと面白い写真が撮れたという感触があった。 あの場にいた何十人の中で、喜んでいたのは多分一人だけだったと思う。
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